ちょうしフラット通信

農業の楽しさを伝えたい!銚子を舞台に挑戦を続ける農家・坂尾英彦さん

2019年8月21日

Hennery Farm 代表 坂尾英彦さん(37)

銚子生まれ銚子育ち。
学生時代からDJや音楽系イベント企画などの活動をし、高校卒業後はレコードや洋服・雑貨販売をするなど、幅広い経験をもつ。
2年ほどの東京生活を経てUターン。
現在は実家の農業を継ぎ、「アフロきゃべつ」「アフロコーン」などの野菜を自ら販売まで行う。
そのほか、銚子でのイベント開催、農泊施設の運営など、精力的に活動している。

「アフロきゃべつ」「アフロコーン」といったインパクトのあるネーミングの野菜を独自に販売し、農業体験なども行っている農家さんが銚子にいます。それが、今回お話を伺うHennery Farm(へネリーファーム)代表の坂尾英彦さん。

農業だけでなく、地元のイベント運営など、いつもさまざまな活動で銚子を盛り上げている坂尾さんですが、現在は農泊施設のオープン準備をしているとのことで、そちらにお邪魔しました。

やってきたのは銚子市西部にある「猿田」という地域。猿田神社を通り過ぎると緑に囲まれた古民家が見えてきました。

こちらが、8月末にオープン予定の「Farm & stay YAOYA」。「田舎暮らし」感満載の、とっても素敵な古民家です。

DJから農家に!?幅広い経験を農業にも活用

高校時代からDJとして活動し、数百人が集まるイベント企画も行っていた坂尾さんは、高校卒業後しばらくしてから拠点を東京に移します。

「そこまで(DJとしてプロになること)は考えていなかったけど、東京でやりたいなって。昼間は会場設営とか建設現場の廃材運びとか、派遣の仕事をやりながらDJをしていました」

しかし、DJにとって不可欠なレコードはかなり高額。東京での生活費に加えて、月に10万円ほどのレコード代がかかったそうです。そこで坂尾さんはアメリカで自分のレコードを買うようになりました。

「レコード屋がアメリカで安く買い付けしてるのを知りました。洋服を買い付けていた先輩や友達と一緒にロサンゼルスやニューヨークに行くようになりました」

▲一度に1000〜2000枚ものレコードを調達していたそう

「でも、東京で活動するって、チケットノルマがあったり、面倒なことも多いんです。ちゃんと音楽したいし、レコードも買いたい。東京でなくても、地元でもできるんじゃないかと」

そう思って、約2年の東京生活を終えて銚子に帰ってきた坂尾さん。銚子が嫌、外に出たい、愛があるから戻る…、そんな気持ちはなかったそうですが、この頃から地元への意識が高まったといいます。

Uターン後は、家業の農業に携わりながら、年に3回ほどアメリカに行き、レコードや雑貨を輸入、販売していました。最初はネット販売でしたが、1年ほどしてから「へネリーレコード」という名前で店舗を持ちました。

「へネリーは『養鶏場』という意味。DJをやっていたので、クラブでノリノリで首を振る鶏を育てる場所、という意味で使っていました。レコード店の時は『へネリーレコード』、雑貨を売るようになってからは『へネリーマーケット』、農業は『へネリーファーム』という名前でやってます」

農家に生まれ、DJ、小売業、そして農業と、その幅広い経験は、現在の活動にもさまざまな部分で役立っているそうです。

▲結婚してからは子供服販売も。

人と繋がるきっかけの場をつくる!「SMILE LINK」や「空き地カフェ」の開催


▲空き地カフェ

坂尾さんは、今年で8年目となる音楽イベント「SMILE LINK」や、飲食店などが集まる「空き地カフェ」の運営にも携わっています。

「銚子に帰ってきてからもクラブでイベントをやってたんですが、お客さんが集まらなくなってきて。その前に仲間たちが大きいスピーカーを自作して、倉庫に2年くらい保管されたままだったので、(それを使って)野外イベントをやってみることにしました」

それまで、銚子市内で許可を取って行われている野外イベントはありませんでしたが、「やるならちゃんとやろうよって。なんとかOKが出て継続しています」

「音楽で上を目指すというよりは、みんなと集まるきっかけになったらいいんじゃないって感じで始まりました」

第一回は、なんとか許可が取れた君ケ浜(銚子の代表的な海岸)の松林の中での開催。

「草ぼうぼうで、小屋はあるけど何もできない状態。みんなで草刈りからやって、整地しました。8月だから暑くて…」

その後、会場は銚子マリーナに移り、地元のお店も出店するようになり、ステージ出演者だけで200人以上にもなる大規模イベントに成長しました。

空き地カフェは、銚子電鉄のOTS犬吠埼温泉駅前広場で行われる、市内の飲食店などが集まるイベント。

「もうちょっとコンパクトに身動き取りやすいものをやろうってなって、仲間が始めました。年3回くらいのペースで5年以上やっています」

イベントの目的について坂尾さんは、「集まるきっかけですよね。それが一番かも。イベントにいろんな人がきたり、紹介してもらったりして人と繋がる。そういうきっかけの場」と話してくれました。

※今年のSMILE LINKは9/8開催です!詳しくはこちら→9月8日開催!Smile Link|銚子市観光協会

もっと楽しい農業をするために。アフロきゃべつへの想い

「農業はずっと同じことの繰り返し。作業なので、基本楽しくなかったです」

現在の精力的な姿からは思いもよらない言葉でしたが、そう感じたからこそ今があるようです。

「まず自分たちがつまらない、やりたくなかったから、楽しくしたいってところから入っているんです。自分たちが作ったものをどうやって売ろうか、じゃあ『アフロきゃべつ』ってインパクトのある名前にして。体験は、畑でアフロ被せればいいかって。一体感というか、お互いを見て笑って楽しくなれば」

そんな風に試行錯誤しながら、坂尾さん自身も農業を楽しめるようになったそうです。

「最初に体験を始めたのはトウモロコシ。3本つく中で1本目に身がつくと収穫する。そうなると2本目は上まで身が入らず、出荷できなくなってしまいます。そこで、それを畑で収穫してもらったり、詰め放題をやってもらったりしたのがきっかけ」

「それからトウモロコシを旭市(銚子市の隣)の道の駅に出したら、その日のうちに売れて、数を追加しても次の日も売れたんです。そこから、自分達で販売する量を増やしていきました。買った人とのやりとりもあるし、そのほうが面白いなと」

その時道の駅で購入したお客さんの中には、今でも東京から銚子にわざわざ足を運んで、アフロコーンを買いに来てくれる方がいるそうです。

「どう?いいのできた?って買いに来てくれるんです。アフロきゃべつも一緒に。直接売ることでそんな風に人と繋がれることが面白い」と坂尾さん。

その後、「アフロコーン」「アフロきゃべつ」というインパクトのある名前をつけ、畑では、収穫体験や試食も併せて提供しています。

「野菜嫌いな人にも、変な名前で興味を持ってもらえたらいいなと思ってます」

なんと、商標も申請しているため、野菜の名前にアフロとつけていいのは坂尾さんだけなんだそうです。

体験に関しても、「収穫体験をしてもらうと、一個取るのにめちゃくちゃ大変って思ってもらったりするので、そういう知ってもらう過程が面白いですね」と話してくれました。

体験後には、きゃべつの旨味がダイレクトに感じられる「きゃべつステーキ」や銚子のイワシのつみれを使った「きゃべつつみれ汁」なども振舞っています。ネーミングや体験内容など、PRの工夫も目立ちますが、味ももちろん◎

もともと銚子は、春きゃべつの生産量が日本一!しかし、同じ銚子でも気候がことなるため、品種も栽培方法も異なります。坂尾さんの畑は海に近いため、潮風によってミネラルが豊富。成分分析したところ、一般的なきゃべつの2.5倍ものミネラル分が含まれているんだそうです。

さらに、キャベツを乾燥してチップスにした「キャベチ」やトウモロコシの実を乾燥させた「カリッとアフロコーン」、乾燥して粉末スープにした「アフロコーンぷーす」など加工した商品の開発、販売にも力を入れています。急な天候の変化で500玉ものアフロきゃべつが割れてしまい、急遽ザワークラウト作りワークショップが開催されたこともありました。

「大量に生産する=大量に廃棄するものがあるということ。特にトウモロコシはキャベツに比べて廃棄が多い。ちょっと上に虫が入っただけで出荷できなくなるので、そういうものを商品化しようというところから始まっています」

「天候の変化などによる急な廃棄にすぐ対応できるようにするために、商品化を進めています。なるべく廃棄しないように、食品ロスより産地ロスを出さないようにと考えています」

農家民宿もオープン間近!

カットや乾燥など、商品加工する設備を整えることや、他の農家さんと連携して体験を行うなど、今後やろうとしていることもたくさんあるそうです。

中でも近々に迫っているのが、ここ、猿田にある農家民宿「Farm & stay YAOYA」のオープン。

「庭で野菜を作ろうと思っています。ここに泊まって、うちの畑で体験してもらうんです。あとはすでに、イチジク、梅、杏、びわ、キンカン、ゆずなんかがあるので、そういうのを採って食べる簡単な体験も」


▲準備中の「Farm & stay YAOYA」には、奥様とお子様の姿も!

農家民宿をやる構想は以前からありましたが、場所の問題がありました。

「今拠点にしている場所ではどうしても許可が取れなかった。それでたまたまネットで『銚子 古民家』って検索したらここが出てきて、すぐ内見に来ました。来てみたら想像以上に良くて、1週間くらいで買うことになりました。銀行とか、いろんな人と話がパパパっと進んで、信じられないくらいのスピードで動いたので『これはやったほうがいい』って」と、準備はかなり順調のようです。

しかし、坂尾さんの畑は猿田とは正反対、車で30分ほどの沿岸部にあります。銚子の中でも端と端とあって、不便も多そうですが…。

「今まで自分がやっていたことは、灯台を見て農業体験をして、海見て帰ろう、って沿岸部だけで完結してたけど、ここが拠点になると、銚子全部を見ることができる。ここを買わなかったらこっち(猿田)のことを全然知らなかったですし。山の中だし、田舎暮らしの雰囲気があるし、銚子じゃないみたいでいいなって」
「庭でバーベキューや流しそうめんをしたり、近くの住民の人と喋ったり、ここでしかできない体験をしてもらいたいです」と坂尾さん。

アイディアマンで行動力たっぷりの坂尾さんがオープンする農家民宿、一体どんなものになるのかとっても楽しみです。また、今後はいろんな人がもっと楽しい農業ができるように、仕組みづくりをしたいとのこと。坂尾さんのこれからの取り組みにも注目です!